成約率を高めるためには───質問が大事
セールスの場では成約率を高める上でお客様に質問をすることが大切です。
しかし一言に質問と言っても、具体的に何を質問すればいいのか、そもそも質問にはどんな種類があるのか、どのようなタイミングでどんな質問をすればお客様から効果的な答えを導き出すことができるのかということは、意外とブラックボックスになっていて見えません。
そこで、質問をすることによってお客様の考えや答えを導き出すための「四種類の質問」についてお伝えします。
そもそも質問が効果的である脳科学的な理由は、お客様とお話しする際にお客様が自分の考えや思いを話すことで思考が整理されるという特性があるためです。
つまり質問によってお客様の考えを引き出せば引き出すほど、話しているお客様自身が頭を整理し、思いもよらなかったことが言語化されて気づきやひらめきが生まれます。
気づきやひらめきはドーパミンの分泌に繋がり、購買行動に至ります。
そのため、質問によってお客様の気づきや考えを引き出すことがとても大事になるのです。
効果的な質問のデータベースを蓄積する
質問力を高めるためには、大きく分けて二つの方法があります。
一つ目が「効果的な質問のデータベース」を蓄積することです。
私、小沼が「質問力を高めるためにはどうすればいいですか」といったご相談を受けた時にご紹介するひとつの方法です。
例えば、あなたがあるセールスパーソンと話していて、「この質問いいな」「この質問ってこういう風にお客様の考えを引き出せるな」と気づいたとしたら、その質問をあなたの中にメモしておいてデータベース化しておく、という方法が考えられます。
良質な質問が良質な考え・答えを引き出すため、質問をストックしておくことでセールス毎に異なるアプローチができるのです。
書籍でも同じです。この本に書いてあるこの人の考えが使えるなと思ったら、その質問をデータベース化しておくことです。
そして、データベースを実際にセールスの現場やコミュニケーションの現場で使ってみることで、質問のデータベースを蓄積、質問の「質」を高めることができます。
私自身も実践しています。実際にセールスを受けた際、「この質問の切り口、入り方がいいな」と、思ったことはメモして、後日セールスの現場で使えるようにしています。
質問の使いどころを実践して修正する
質問力を高める二つ目の方法は「質問の使いどころを実践して修正する」です。
質問を頭にデータベース化しただけでは全く使えません。
いい質問をいくらストックしたとしても、使ってみなければ効果的に機能するのかは分かりません。
したがって、蓄積した質問は是非使ってみてください。使ってみることで質問の使いどころを見極められるようになります。例えば、同じ質問でも「Aという状況で使うのか、Bという状況で使うのか」など、使い分けについて知ることができます。
質問はそれぞれの効果性が異なります。使いどころは、実践して修正、実践して修正する行為の繰り返しで磨かれます。効果的な質問をストックしたら、その質問を使ってみるということを行ってください。
四種類の質問テンプレート
質問力を高める二つの方法をご理解頂いた上で、「四種類の質問テンプレート」について解説します。こちら4種はセールスの最中によく使われるものです。
抽象化質問
まず一つ目は「抽象化質問」です。
抽象化質問とは「一般化」や「俯瞰=上から全体的に客観」することを促進する質問です。
抽象化質問によって、本質的な課題や共通のパターンを見出したり、お客様自身に気づきを与える効果が期待できます。
質問例として、何かお客様と話している際、「●●様のおっしゃりたいことはどういうことでしょうか」「今までお話ししてきたことに共通するパターンはどのようなことだと思われますか」あるいは「問題の本質はどのようなことだと思われますか」というものが考えられます。
抽象化質問の効果は、概念化や俯瞰をすることによってお客様自身の本質的な課題や共通のパターンを見出すということです。
抽象化質問によってラベリングを行い、お客様にとっても課題やパターンを見出すために必要な行為であると理解してもらえるよう、意図的に使いましょう。
具体化質問
二つ目のテンプレートは「具体化質問」です。
1つ目の「抽象化質問」とは真逆の概念です。
具体化質問とは、特定の事柄を具体化・明確化することに長けた質問です。
セールスの場において、お客様が漠然と考えていることを明確にしたり、具体的な課題や問題を浮き彫りにしたりする効果が期待できます。
例えば「具体的に言うとどのようなことですか」「例えばどのようなことですか」「●●ということに定義づけをするならばどのようなことでしょうか」といったような質問が具体化質問です。
「●●ということに定義づけをするならば~」という質問を行う場合、難しい言葉、例えばお客様しか分からない専門用語、お客様がなんとなく漠然と考えていること、に対して「定義付けをするとするならばどういうことでしょうか」と聞けば、お客様はどんどん自分の考えを具体化してくれます。
お客様が言っている言葉や考えが漠然としている、お客様の考えが掴みきれていない場合に具体化質問によってお客様の考えを引き出していきましょう。
水平展開質問
三つ目のテンプレートは「水平展開質問」です。
水平展開質問は、抜け漏れを防ぎ、脳内の言語化を余すことなく促進する質問です。
よくコンサルタントのフレームワークとして使われる、もれなく・ダブりなくという意味を示す「MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)」における横展開の考え方に近いです。
MECEとは、お客様の脳内を余すことなく言語化するということです。情報収集の漏れ、およびお客様が後で「そういえばこういう課題もあった」「あれもあった」というような「あとだしジャンケン」を出すことを防ぐ効果があります。
イメージとしては、抽象化質問が「上にあげる」つまり俯瞰する、具体化質問は掘り下げる、水平展開質問とは横に展開する質問です。
例えば「他にもありますか」「他にも思いつくことはありますか」「類似するケースは考えられますか」「●●を別の表現で言っていただくとどのようなことでしょうか」等が水平展開質問にあたります。
「他にありますか」と聞くことで、お客様は「本当に他にないかな?」と考えることでしょう。
例えばカウンセリングなどを行った相手の事業リスクとしてAとBが想定されることが判明した場合「ちなみに他に考えられるリスクはございますか」と聞くと、A/B以外で考えてくれることでしょう。もしかしたらC/Dと顕在化するかもしれません。
このように、水平展開質問は横に展開していく質問です。ダブり・漏れがない状態を作ることができるため、お客様の考え方がより理解できます。またセールスの場で意外と発生しがちな、お客様からの「ごめん実は言ってなかったけどこういう問題もあったんだ」という後出しジャンケンも防ぎます。
お客様がまだ言ってないことがあるかもしれない、言語化してないことがあるかもしれない、と思った時には水平展開質問を積極的に使って言語化を促してみてください。
合意形成質問
最後である四つ目は、「合意形成質問」です。
合意形成質問とは、「心理的合意を促す」質問のことです。
セールスにおいては、お客様と着実に合意形成を重ねることが成約率を高めるために大切です。
お客様の合意を得ていない提案提案をしても結局その点は響きません。この合意形成をするときの質問が合意形成質問なのです。イエスセット話法とも呼ばれます。
質問の例として「今仰っていただいたことをまとめると、●●ということでよろしいでしょうか」「現状を把握するために、これからご質問させていただきますがよろしいでしょうか」あるいは「以上が具体的なご提案になりますが、ご興味は終わりですか」こういった、 Yes-Noで答えられるものが挙げられます。
質問に対し、Yesの回答をもらうことで、お客様の脳の中に「自分はYesと言ったのだ」という意識を作り出せます。
認知的不協和 - 「Yes」を引き出すために意識すべきこと
心理学の言葉で「認知的不協和」というものがあります。
認知的不協和とは「自分自身がYesと言ったこと、こうしますと言ったことを自分で否定することで、自分の中に生じる違和感、ノイズ」です。
例えば、Aをやりますと決まっていて、あとからBにしますという場合、多くの人は不満や矛盾を感じつつ自分の中で回答を導きます。
そのため、お客様からYesを貰っていけば、後々お客様自身が認知的不協和によって直前までのYesを否定しにくくなるのです。
つまり、成約率が高まることになります。
私はセールスについて、この「Yesの階段」を一歩ずつ積み重ねていくことであると捉えています。階段が100段あるのか、あるいは10段しかないのかということはお客様によって異なるということです。
積み重ねたYesの先にある最終的なYesが、成約・受注ということになります。是非、この合意形成質問というものも意識してみてください。
積極的に質問テンプレートを活用し、身につけよう!
セールスの場で必須となる「4種類の質問テンプレート」について解説しました。
一つ目の質問テンプレートが「抽象化質問」、抽象化して物事を俯瞰したり、共通のパターンや本誌的な課題を見出す質問をしていきましょう。
二つ目の質問テンプレートが「具体化質問」、具体的にお客様の趣向を導き出していく時に使っていきましょう。
三つめの質問テンプレートが「水平展開質問」、横に展開して質問することでお客様の考えの抜け漏れ、ジャンケン後出しを防ぎ、しっかりと効果的な提案につなげましょう。
四つ目が「合意形成質問」、お客様のYesを確実に獲得していくことで、結果的に成約・受注に繋がるのです。
自身で言ったことを自分で否定することには大きな違和感が生まれる、という認知的不協和を商談で利用し、合意形成質問を繰り返し行うことで成約につなげましょう。
テンプレートを身に着けるためには、一日一度でもいいのでまず使ってみることが必要です。
いきなり現場で使うのは怖いという場合は、社内コミュニケーションの時など意図的にこの四つの質問を使ってみて、修正してください。実行と修正を繰り返していただくことが、テンプレートを身に着けるための近道です。
コラムを読み終わったら、ぜひさっそく誰かと話したり議論する際にお試しください。